「ヘム鉄って何だろう?」
「ヘム鉄って聞いたことはあるけどよく分からないな……」
そのように気になっている方は少なくないかもしれませんね。
ヘム鉄は鉄の化合物です。
食品中の鉄は肉や魚に含まれるヘム鉄と野菜などに含まれる非ヘム鉄に分けられ、体内での吸収率などに違いがあります。
鉄の過不足は、健康へさまざまな悪影響が生じることがあります。
この記事ではヘム鉄の特徴や含有量の多い食品についてご説明する他、鉄のはたらきや効率良く摂取するポイントについて詳しく解説します。
1.ヘム鉄とは
ヘム鉄という言葉が耳慣れないと感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。
ヘム鉄とは鉄の一種です。
食品に含まれる鉄は、たんぱく質と結合したヘム鉄と、結合していない非ヘム鉄に分けられます。
ヘム鉄は、肉や魚など動物性食品に多く含まれています。
非ヘム鉄は野菜など植物性食品の他、卵や牛乳にも多く含まれます。
両者の主な違いは吸収率で、ヘム鉄には非ヘム鉄よりも吸収されやすいという特徴があります。
日本人は植物性食品からの鉄の摂取が多く、非ヘム鉄の割合が高い傾向にあるといわれています。
【関連情報】 「鉄分とは?はたらきや食事摂取基準、多く含まれる食品などを紹介」についての記事はこちら
2.ヘム鉄を多く含む食品
「ヘム鉄って何に含まれているんだろう?」
具体的にどのような食品にヘム鉄が含まれるのか、気になりますよね。
鉄は日本人に不足しがちな栄養素です。
そのため、吸収の良いヘム鉄を積極的に摂取することがおすすめです。
ヘム鉄が多く含まれる食品には以下のようなものがあります。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
豚レバー | ||
鶏レバー | ||
鶏ハツ | ||
牛レバー | ||
牛ヒレ肉 | ||
まいわし | ||
かき | ||
きはだまぐろ | ||
かつお |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
3.鉄のはたらきと過不足の影響
ヘム鉄は鉄の一種ですが、そもそも鉄の役割とは何でしょうか。
鉄は古くから貧血の治療に用いられていたといわれるとおり、不足すると「鉄欠乏性貧血」を引き起こす原因となります。
ここでは、ヘム鉄を含む鉄のはたらきや過不足による体への影響について見ていきましょう。
3-1.鉄のはたらき
体内で鉄は「機能鉄」および「貯蔵鉄」として存在しています。
体内の鉄の多くを占めるのが機能鉄で、赤血球の「ヘモグロビン」の構成成分となり、酸素を運搬するはたらきをします。
さらに、さまざまな「酵素」の材料として利用されます。
また、ミオグロビンは主に心筋や骨格筋に含まれる機能鉄で、ヘモグロビンから受け取った酸素をエネルギー産生のために供給します。
一方、貯蔵鉄はフェリチンやヘモシデリンとして肝臓や骨髄、筋肉に蓄えられ、新たに赤血球が作られる際に使われます。
機能鉄が不足すると、不足を補うため貯蔵鉄が放出されます。
3-2.鉄の摂取不足による影響
鉄は不足しても摂り過ぎても体に影響を及ぼします。
鉄が不足すると赤血球中のヘモグロビンが減少し、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。
ヘモグロビンは、鉄を含むヘムという色素とたんぱく質の結合によるヘムたんぱく質から構成されています。
酸素と結合し、全身へ酸素を供給します。
そのため食事からの摂取不足や月経による損失などで鉄が不十分な状態になると、ヘモグロビンが減少し体内へ十分な酸素を届けられなくなります。
その結果、鉄欠乏性貧血を招き、頭痛、息切れ、食欲不振などの症状が現れることがあります。
また、鉄の不足により筋肉中のミオグロビンが減少すると、筋力が低下したり疲労感が出現したりすることがあります。
貧血の症状は鉄の欠乏がかなり進まないと自覚できないため、普段から意識的に鉄を摂るようにしたいですね。
特に鉄の需要が高まる妊婦や授乳婦、著しい成長が見られる乳幼児では鉄不足が起こりやすいため注意しましょう。
3-3.鉄の過剰摂取による影響
通常の食生活を行っている場合、鉄の摂取が過剰になることはほぼありません。
ただし、サプリメントの服用や鉄が強化された食品の摂取、貧血治療のための鉄製剤の不適切な使用により過剰摂取となる場合があります。
成人においては、臓器への鉄の蓄積により慢性疾患の発症が促進されるという報告があります。
また高齢女性を対象にした研究では、鉄のサプリメントの使用が総死亡率の上昇につながることが認められています。
食品以外から鉄を摂取する場合は、過剰にならないよう注意が必要です。
4.鉄の食事摂取基準
「鉄はどのくらい摂ったら良いんだろう?」
このように気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この章では「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で定められている鉄の摂取推奨量と耐容上限量をご紹介します。
鉄の摂取推奨量は次のように定められています。
年齢 | 男性 | 女性(月経なし) | 女性(月経あり) |
---|---|---|---|
6~11(カ月) | |||
1~2(歳) | |||
3~5(歳) | |||
6~7(歳) | |||
8~9(歳) | |||
10~11(歳) | |||
12~14(歳) | |||
15~17(歳) | |||
18~29(歳) | |||
30~49(歳) | |||
50~64(歳) | |||
65~74(歳) | |||
75以上(歳) |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
5カ月までの乳児には0.5mgの目安量が定められています[1]。
また妊娠中・授乳中の女性の場合、推奨量に加えて付加量が設定されています。
妊婦 初期 | |
---|---|
妊婦 中期・後期 | |
授乳婦 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
鉄の耐容上限量は1歳以上に対して次のように定められています[1]。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
1~2(歳) | ||
3~5(歳) | ||
6~7(歳) | ||
8~9(歳) | ||
10~11(歳) | ||
12~14(歳) | ||
15~17(歳) | ||
18~29(歳) | ||
30~49(歳) | ||
50~64(歳) | ||
65~74(歳) | ||
75以上(歳) |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
5.鉄を効率良く摂取するためのポイント
「鉄が不足しないように摂るにはどうしたら良いのかな……」
貧血を防ぐためにも、鉄が不足しないように気を付けたいですよね。
鉄が多く含まれる食品を食べることも大事ですが、一緒に摂ることで鉄の吸収が良くなる栄養素もあります。
鉄を効率良く摂る方法について、具体的に見ていきましょう。
ポイント1 吸収を促す栄養素を一緒に摂る
ビタミンCは消化管での鉄の吸収を促すといわれます。
特に緑黄色野菜や果物に多く含まれる栄養素です。
ビタミンCを多く含む食品には次のようなものがあります。
食品名 | 加工状態など | 含有量 |
---|---|---|
アセロラ | ||
青汁(ケール) | ||
赤ピーマン | ||
黄ピーマン | ||
ブロッコリー | ||
パセリ | ||
レモン | ||
カリフラワー | ||
青ピーマン | ||
キウイフルーツ(緑) |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
また、ヘム鉄よりも吸収率が低い非ヘム鉄は、動物性たんぱく質と一緒に摂ることで吸収が良くなるといわれます。
さらにヘム鉄も非ヘム鉄の吸収を促します。
鉄を含む食品は、動物性と植物性の両方をバランス良く摂ることで鉄の吸収率を高めることができますよ。
ポイント2 吸収を妨げる食品を一緒に摂らない
鉄を効率良く摂取するためには、鉄の吸収を妨げる食品を避けることが大切です。
鉄の吸収を妨げる食品には、コーヒーや紅茶、ウーロン茶などがあります。
これらにはポリフェノールの一つである「タンニン」という成分が含まれています。
タンニンは食品の渋みの成分で、鉄の吸収を妨げる作用を持ちます。
そのため、食事の最中にコーヒーや濃い緑茶などを飲むことは控えた方が良いでしょう。
また、玄米や豆類などに含まれる不溶性食物繊維は鉄の排出を促進してしまいます。
他にも、ハムやソーセージなどの加工食品やインスタント食品、スナック菓子などの添加物「リン酸塩」は鉄の吸収を妨げます。
鉄の吸収が阻害されないように、食べ合わせには注意したいですね。
ポイント3 鉄製の調理器具を使用する
調理の際に鉄製の調理器具を使うことも鉄の補給に有効です。
鉄製の鍋やフライパンで調理をすると鉄が少しずつ溶け出すので、自然に鉄の摂取を増やすことができます。
ただし、鉄製品でも表面がフッ素樹脂コーティングされたものには効果がないので注意しましょう。
鉄鍋がなくてもより手軽に使える鉄補給用の調理補助製品が市販されているので、気になる方は試してみてくださいね。
6.ヘム鉄についてのまとめ
ヘム鉄は、肉や魚など動物性食品に多く含まれる鉄のことです。
ヘム鉄には主に植物性食品に多く含まれる非ヘム鉄よりも吸収されやすいという特徴があります。
ヘム鉄を多く含む代表的な食品は、豚・鶏・牛のレバーやいわし、まぐろ、かつおなどです。
体内の鉄は「機能鉄」および「貯蔵鉄」として存在します。
機能鉄は赤血球の「ヘモグロビン」の構成成分で、全身への酸素の運搬を行う他、酵素の材料としても使われます。
貯蔵鉄は肝臓や筋肉に蓄えられており、機能鉄が不足すると体内へ酸素を供給するために利用されます。
鉄が不足するとヘモグロビンの減少により鉄欠乏性貧血を起こし、頭痛、息切れ、食欲不振などの症状が現れることがあります。
また、筋肉中のミオグロビンが減少し、筋力の低下や疲労感などの症状が現れることがあります。
一方、鉄の過剰摂取はほぼありませんが、サプリメントなどの不適切な使用により生じる場合があります。
過剰摂取による慢性疾患の発症の促進や死亡率の上昇などの報告もあるため注意が必要です。
鉄は日本人に不足しがちな栄養素です。
特に鉄の需要が高まる妊婦や授乳婦、著しい成長が見られる乳幼児では鉄不足が起こりやすくなります。
鉄を効率良く摂取するためのポイントとして「吸収を促す栄養素を一緒に摂る」「吸収を妨げる食品を一緒に摂らない」「鉄製の調理器具を使用する」などが挙げられます。
ヘム鉄の多い食品を摂ったり鉄の吸収を高める工夫をしたりすることで貧血などの不調を予防し、日々健康に過ごしてくださいね。