「エネルギー産生栄養素ってどんなものだろう?」
「どんなバランスで摂取すれば良いの?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
エネルギー産生栄養素は、ヒトの体のエネルギー源となる炭水化物(糖質)・脂質・たんぱく質の3種類の栄養素の総称です。
エネルギーになるという性質は共通している一方で、それぞれに異なる作用もあるため不足したり摂り過ぎたりすると体にさまざまな悪影響を及ぼします。
そのためエネルギー産生栄養素はどれか一つに偏ることなくバランス良く摂取することが重要です。
この記事ではエネルギー産生栄養素とはどのようなものなのか、それぞれどんなはたらきをするのか、どのようなバランスで摂取すれば良いのか、三つの栄養素について詳しくご説明します。
1.エネルギー産生栄養素とは
「エネルギー産生栄養素ってなんだろう?」
炭水化物や脂質、たんぱく質といった個々の栄養素の名前に比べ、エネルギー産生栄養素という言葉はあまり見聞きする機会のないものかもしれません。
エネルギー産生栄養素とは、ヒトの体のエネルギー源となる炭水化物・脂質・たんぱく質の3種類の栄養素の総称です。
ヒトの体は食べ物に含まれるエネルギー産生栄養素からエネルギーを生み出し、脳や内臓の機能を維持したり、体を動かしたりするのに消費しています。
このエネルギーの多くは最終的に熱として体から放出されるため、エネルギーの量は「熱量」とも呼ばれます。
言い換えれば、エネルギー産生栄養素は「カロリーのある栄養素」となるでしょう。
炭水化物(糖質)とたんぱく質は1g当たり約4kcal、脂質は1g当たり約9kcalのエネルギーを生み出します[2]。
脂質が肥満の原因として知られているのはそのカロリーが他のエネルギー産生栄養素の2倍以上もあるからなのですね。
[1] 内閣府食品安全委員会「食品安全 Vol.12」
[2] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
【関連情報】 「栄養バランスの取れた食事とは?主食・主菜・副菜のポイントを紹介」についての記事はこちら
2.エネルギー産生栄養素の性質とはたらき
「エネルギー源になるってことは、炭水化物もたんぱく質も脂質も同じはたらきをするってこと?」
このように疑問に思った方もいらっしゃるかもしれませんね。
三つのエネルギー産生栄養素はそれぞれ異なる性質を持ち、エネルギー源となる他にも体内で重要なはたらきをしています。
ここでは、それぞれの栄養素の性質とはたらきをご紹介しましょう。
2-1.炭水化物の性質とはたらき
炭水化物は、エネルギー源となる糖質とヒトの消化酵素では消化できずほとんどエネルギーにならない食物繊維に分けられます。
炭水化物から摂取できるエネルギーのほとんどは糖質由来のもので、炭水化物は主にエネルギー源として重要なはたらきをしています。
炭水化物(糖質)を十分に摂取できていないと体のエネルギーが不足し、集中力の減退や疲労感が見られます。
なお、糖質は「糖」がいくつ結合しているかによって、「単糖類」「少糖類」「多糖類」に分類されます。
なかでもブドウ糖は自然界に最も多く存在する単糖類で、ヒトの重要なエネルギー源です。
特別な場合を除き、脳や神経、赤血球などの器官がエネルギー源として利用できるほぼ唯一の物質だといわれています。
このためブドウ糖が不足すると意識障害を起こす恐れもあります。
ブドウ糖は単糖類として存在しているだけでなく、他の糖と結びついて少糖類や多糖類などの糖質を構成しています。
食べ物に含まれる糖質は消化・吸収の過程で単糖類に分解され、そのうちブドウ糖は血液に溶け込んで「血糖」となります。
血糖が増える(血糖値が上昇する)と、それに反応して膵臓(すいぞう)から「インスリン」というホルモンが分泌されます。
インスリンは全身の細胞に血糖をエネルギーとして使わせることで、血糖値を下げるはたらきをするホルモンです。
一方でインスリンには細胞がエネルギー源として使い切れなかったブドウ糖を脂肪などに変え、体内に蓄えるはたらきを促進する作用もあります。
このため糖質を摂り過ぎると肥満や生活習慣病の原因となってしまうので注意が必要です。
糖質と炭水化物の関係は?両者の違いやはたらきを分かりやすく解説
2-2.脂質の性質とはたらき
脂質は人体を構成する成分のうち水に溶けないものを指し、体内では水分の次に多い構成要素です。
体内ではエネルギー源となる他、細胞膜を構成したり、ホルモンなどの「生理活性物質」の材料となったりしています。
また脂質には脂溶性ビタミンなど油に溶ける性質のある栄養素の吸収を助ける作用もあります。
ビタミンはその性質によって脂溶性と水溶性に分けられ、脂溶性ビタミンにはビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKの四つがあります。
ビタミンは必要量こそ微量ですが、体の機能を保つためには欠かせない栄養素です。
食べ物から摂取する必要があり、不足するとさまざまな不調を引き起こします。
このように体に必要な脂質ですが、一方で摂り過ぎると体脂肪として蓄えられ、肥満や生活習慣病の原因となってしまうため、適量を摂取することが重要です。
2-3.たんぱく質の性質とはたらき
たんぱく質はヒトの体から水分を除いた重量の約50%を占めています[3]。
エネルギー源となる他に、筋肉や臓器、皮膚、髪の毛などの体の組織を構成するという重要な役割を果たしています。
またたんぱく質はホルモンや酵素、抗体などの体の機能を調節する成分の材料としてもはたらきます。
不足すると筋肉量や体力、免疫機能の低下などのさまざまな不調を引き起こします。
たんぱく質は体に必要な栄養素のなかでも特に重要なものの一つだといえるでしょう。
たんぱく質とは?体内でのはたらきや食事摂取基準、豊富な食品を紹介
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「たんぱく質」
3.エネルギー産生栄養素の理想のバランス
炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質は全て体のエネルギー源になる栄養素です。
「糖質や脂質は肥満の原因になるっていうから、できるだけたんぱく質からエネルギーを摂取すれば良いのかな?」
このようにお考えの方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、基本的に体重はエネルギー摂取量(摂取カロリー)とエネルギー消費量(消費カロリー)の関係によって変動すると考えられています。
エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回っていれば体重は増え、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を下回れば体重は減ります。
エネルギー源をたんぱく質に切り替えたからといって痩せるようなことはないと考えられるでしょう。
また一口にエネルギー産生栄養素といっても、それぞれの栄養素には異なるはたらきがあります。
どれも体に重要なものであるため、健康のためにはどれか特定の栄養素ばかりを摂るのではなく、バランス良く摂取する必要があります。
ではどのようなバランスでそれぞれのエネルギー産生栄養素を摂取すれば良いのかが気になるところですよね。
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」において、炭水化物、脂質、たんぱく質の「目標量」を、1日に摂取するエネルギー量に対してそれぞれの栄養素から摂取するエネルギー量が占める割合で設定しています。
各エネルギー産生栄養素から摂取すべきエネルギー量の理想的なバランスの指標を「エネルギー産生栄養素バランス」といいます。
なお、総エネルギー摂取量に対し、各栄養素から摂取するエネルギー量が占める割合を表す単位は「%エネルギー」です。
各年代のエネルギー産生栄養素バランスは以下のとおりです。
年齢 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
炭水化物 | 脂質 | たんぱく質 | 炭水化物 | 脂質 | たんぱく質 | |
1〜49歳 | ||||||
50〜64歳 | ||||||
65歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに執筆者作成
また妊婦・授乳婦の方には以下の目標量が設定されています。
時期 | 炭水化物 | 脂質 | たんぱく質 | |
---|---|---|---|---|
妊娠 | 初期・中期 | |||
後期 | ||||
授乳期 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに執筆者作成
なお、脂質のなかでも飽和脂肪酸には別途目標量が設定されています。
飽和脂肪酸の目標量は3~14歳で10%エネルギー以下、15~17歳で9%エネルギー以下、18歳以上で7%エネルギー以下です[4]。
エネルギー源をどれか特定の栄養素に頼るのではなく、バランス良く摂取することを心掛けましょう。
とはいえ、1日に摂取すべきエネルギー量が分からなければ実際に何をどれだけ摂れば良いのか分からず困ってしまいますよね。
そこで、1日の推定エネルギー必要量を確認してみましょう。
推定エネルギー必要量は性別や年齢、身体活動レベルによって異なります。
身体活動レベルは以下のとおりに分類されます。
低い | 生活の大部分を座って過ごし、体を動かす機会があまりない場合 |
---|---|
普通 | 座って過ごすことが多いが、歩いたり立った状態で作業・接客したりすることがある仕事に就いている場合、または通勤や買い物で歩いたり、家事をしたり、軽いスポーツを行ったりする習慣がある場合 |
高い | 移動したり立った状態で作業したりすることの多い仕事に就いている場合、または余暇にスポーツをするなどの活発な運動習慣がある場合 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに執筆者作成
推定エネルギー必要量は以下のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
身体活動レベル | 低い | 普通 | 高い | 低い | 普通 | 高い |
1〜2歳 | ||||||
3〜5歳 | ||||||
6〜7歳 | ||||||
8〜9歳 | ||||||
10〜11歳 | ||||||
12〜14歳 | ||||||
15〜17歳 | ||||||
18〜29歳 | ||||||
30〜49歳 | ||||||
50~64歳 | ||||||
65~74歳 | ||||||
75歳以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに執筆者作成
なお妊婦は授乳婦の方は年代・身体活動レベル別の推定エネルギー必要量に以下の付加量を加えたエネルギー量が目安です。
時期 | 身体活動 | |
---|---|---|
低い・普通・高い | ||
妊娠 | 初期 | |
中期 | ||
後期 | ||
授乳期 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をもとに執筆者作成
例えば身体活動レベルが「普通」に該当する18〜29歳の女性の場合、1日の推定エネルギー必要量は1,950kcalです。
その年代の女性の炭水化物の目標量は50〜65%エネルギー、脂質の目標量は20〜30%エネルギー、たんぱく質の目標量は13〜20%エネルギーでしたね。
また飽和脂肪酸の目標量は7%エネルギー以下です。
この場合、炭水化物から摂取すべきエネルギー量は975〜1,268kcal、脂質から摂取すべきエネルギー量は390〜585kcal、たんぱく質から摂取すべきエネルギー量は254〜390kcalということになります(小数第一位で四捨五入)。
また飽和脂肪酸から摂るエネルギー量は約137kcal以下に抑えることが望ましいといえます。
炭水化物(糖質)とたんぱく質のエネルギー量は1g当たり約4kcal、脂質のエネルギー量は1g当たり約9kcalなので[4]、それぞれ1g当たりのエネルギー量で割れば重量に換算することができます。
炭水化物(糖質)は約244〜317g、脂質は約43〜65g、たんぱく質は64〜98g程度が目安になるといえるでしょう(小数第一位で四捨五入)。
飽和脂肪酸は15g以下にすべきということになります(小数第一位で四捨五入)。
エネルギー産生栄養素の摂取量を重量で考えたい場合はこのような計算をしてみましょう。
[4] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
[5] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
4.エネルギー産生栄養素の摂取源となる食べ物
「エネルギー産生栄養素はどんな食べ物に含まれているんだろう?」
「たんぱく質は何から摂取すれば良いのかな?」
このように気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この章では、エネルギー産生栄養素の主な摂取源となる食べ物をご紹介しましょう。
4-1.炭水化物の摂取源となる食べ物
炭水化物の主な摂取源となるのはご飯やパン、麺類などの主食類です。
この他にいも類や一部の野菜類、果物類、砂糖などの甘味料も炭水化物の摂取源となります。
代表的な食品の炭水化物含有量および糖質含有量、エネルギー量は以下のとおりです。
食品名 | 加工状態など | 炭水化物含有量 | 糖質含有量 | エネルギー量 |
---|---|---|---|---|
上白糖 | ||||
ドロップ | ||||
コーンフレーク | ||||
マシュマロ | ||||
米(うるち米) | ||||
米 | ||||
マカロニ、スパゲッティ | ||||
うどん | ||||
そば | ||||
フランスパン | ||||
中華めん | ||||
甘栗 | ||||
ホットケーキ | ||||
みたらしだんご | ||||
さつまいも | ||||
バナナ | ||||
西洋かぼちゃ | ||||
じゃがいも | ||||
ぶどう(シャインマスカット、ナガノパープル) | ||||
とうもろこし(スイートコーン) | ||||
ぶどう(デラウェア、ベリーA、ネオマスカット、ピオーネ、巨峰) | ||||
そらまめ(未熟豆) | ||||
れんこん | ||||
さといも |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
4-2.脂質の摂取源となる食べ物
脂質を多く含む食べ物には食用油、肉類、魚類などがあります。
またナッツ類や乳製品、卵などにも脂質が含まれています。
代表的な食べ物の脂質含有量、飽和脂肪酸含有量、エネルギー量は以下のとおりです。
食品名 | 加工状態など | 脂質含有量 | 飽和脂肪酸含有量 | エネルギー量 |
---|---|---|---|---|
ごま油 | ||||
ラード | ||||
オリーブオイル | ||||
なたね油 | ||||
マーガリン(有塩) | ||||
バター(有塩) | ||||
マカダミアナッツ | ||||
ヘーゼルナッツ | ||||
くるみ | ||||
鶏皮(もも) | ||||
らっかせい | ||||
クリーム(乳脂肪) | ||||
クリーム(乳脂肪・植物性脂肪) | ||||
あんこう肝 | ||||
クリーム(植物性脂肪) | ||||
ホワイトチョコレート | ||||
豚ばら肉 | ||||
油揚げ | ||||
ミルクチョコレート | ||||
クリームチーズ | ||||
牛ばら肉 | ||||
牛たん | ||||
くろまぐろ(養殖)トロ | ||||
さんま | ||||
牛サーロイン | ||||
全粒大豆(米国産) | ||||
全卵(鶏卵) |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
4-3.たんぱく質の摂取源となる食べ物
たんぱく質は肉類、魚類、豆類、卵類などに豊富に含まれています。
主なたんぱく源となる食べ物のたんぱく質含有量およびエネルギー量(カロリー)は以下のとおりです。
食品名 | 加工状態など | たんぱく質含有量 | エネルギー量 |
---|---|---|---|
全粒大豆(米国産) | |||
らっかせい | |||
かつお(春獲り) | |||
かつお(秋獲り) | |||
くろまぐろ(養殖)赤身 | |||
くじら(赤肉) | |||
鶏ささみ | |||
鶏むね肉 | |||
豚ロース(赤肉) | |||
プロセスチーズ | |||
しろさけ | |||
豚ヒレ肉(赤肉) | |||
牛サーロイン(赤肉) | |||
牛リブロース(赤肉) | |||
まだい(養殖) | |||
まさば | |||
豚レバー | |||
バナメイえび | |||
カマンベールチーズ | |||
鶏もも肉 | |||
まだこ | |||
するめいか | |||
卵黄(鶏卵) | |||
納豆 | |||
全卵(鶏卵) |
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに執筆者作成
たんぱく質含有量の多い食品には、脂質を多く含むものも少なくありません。
脂質の摂り過ぎには注意しましょう。
5.エネルギー産生栄養素についてのまとめ
エネルギー産生栄養素は、ヒトの体のエネルギー源となる炭水化物、脂質、たんぱく質の三つの栄養素の総称です。
炭水化物は糖質と食物繊維に分けられますが、炭水化物から摂取できるエネルギーはほぼ糖質由来のものであるといえます。
炭水化物(糖質)とたんぱく質は1g当たり約4kcal、脂質は1g当たり約9kcalのエネルギーを生み出します[6]。
これらの栄養素はエネルギー源となる他にそれぞれに重要なはたらきをしています。
炭水化物のなかでもブドウ糖は脳や神経などのエネルギー源として重要です。
また脂質はエネルギー源の他、細胞膜やホルモンの材料となったり、脂溶性ビタミンの吸収を助けたりしています。
たんぱく質は筋肉や臓器、皮膚、髪の毛などの材料となる他、ホルモンや酵素、抗体などの体の機能を調整する物質としてもはたらきます。
このようにエネルギー産生栄養素はそれぞれ重要なはたらきをするため、バランス良く摂取することが重要です。
1日のエネルギー摂取量に対し、それぞれのエネルギー産生栄養素から摂るべきエネルギーの割合をエネルギー産生栄養素バランスといいます。
炭水化物(糖質)から摂取すべきエネルギー量は1日のエネルギー摂取量の50〜65%エネルギー、脂質から摂取すべきエネルギー量は20〜30%エネルギーです[6]。
またたんぱく質から摂るべきエネルギー量は年代によって異なり、1〜49歳では13〜20%エネルギー、50〜64歳は14〜20%エネルギー、65歳以上は15〜20%エネルギーです[6]。
エネルギー源が偏ってしまわないよう、バランスの取れた食事を心掛けましょう。
[6] 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」